「相続税対策として不動産投資が効果的である」という説があります。ただし、不動産の購入は必ずしも得になるとは限りません。不動産の資産価値が変動すれば赤字が出るリスクがあり、さらに遺産分割では相続人同士のトラブルに注意が必要です。
ここでは、不動産投資が節税に有効な理由をご紹介すると共に、不動産の形で相続しないという選択肢についても解説していきます。相続対策や節税対策を考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
INDEX
相続税対策に不動産購入がすすめられる理由
まずは、なぜ不動産の購入が相続税対策になるのか、その理由について解説していきます。相続税対策として不動産投資が有効なケースについてポイントを押さえておきましょう。

土地の評価額が下がる
不動産の購入が相続税対策になる理由の一つは、土地の評価額と購入時の金額が同じではないためです。
相続税を計算する場合、土地に対しては購入時の金額ではなく、国税庁が決定する路線価が用いられます。この路線価は、実際の土地の購入金額よりも低くなる場合が多いため、その差額によって土地の評価額が下がるのです。
路線価は土地の時価の70~80%程度が目安となるので、実際に土地を購入した価格よりも20~30%ほど評価額を抑えられる可能性があります。
建物の評価額が下がる
相続税の計算で建物を評価する際は、購入金額ではなく固定資産税評価額が用いられます。建物の固定資産税評価額も、土地の場合と同じように実際の購入金額よりも低くなる傾向にあります。そのため、差額により評価額が下がる可能性があるのです。
建物の固有資産評価額は、かなり低めに設定されることが多く、最大で時価の50%ほどまで下がるケースもあります。この場合、建物は建築にかかった金額の半分程度の額で評価されると考えてよいでしょう。
賃貸物件は評価額が下がる
単純に土地や建物を購入した場合も、実際の購入金額よりも評価額が低くなる傾向にあります。一方で、購入した物件がアパートなどの賃貸物件だった場合には、さらに評価額が30%減少します(2020年4月1日現在)。この30%の割合を「借家権割合」といいます。
賃貸不動産の土地の評価には、借地権割合が用いられます。借地権割合は、路線価や固有資産評価額に乗算して用いられます。賃貸物件の場合、土地は購入金額の50~55%、建物は購入金額の35%ほどが最終的な評価額の目安です。
小規模宅地の特例を利用できる
不動産を相続する際は「小規模宅地の特例」という制度を使うことで、さらに評価額を下げられます。
「小規模宅地の特例」とは、相続税の発生により自分が住んでいる宅地を売却せざるを得なくなるケースのように、相続人の生活が圧迫されるのを防ぐために設けられた制度です。制度を用いると土地の評価額が80%も減額されます。
ただし、この特例が適用されるには条件があります。それは、相続前から被相続人と同居している居住用宅地、あるいは事業に利用している事業用宅地であることです。相続人が別居している場合や、相続する宅地が別荘である場合、対象となりません。
また、特例が認められる宅地の広さには上限があります。居住用宅地では330㎡、事業用宅地では400㎡までが上限です。これらの面積を超える宅地の場合、特例が適用されるのは上限面積までとなり、超過分の宅地の価格は減額されず元の評価額で計算されます。
「小規模宅地の特例」を利用するには、相続開始から相続税の申告期間、つまり相続後10カ月までは相続した宅地を継続して利用し続けなければなりません。
このほかにも、宅地の中で不動産の貸付業や駐車場業を営んでいる場合は、宅地が貸付事業用宅地として扱われるため、減額率が50%まで下がる点に注意が必要です。貸付事業用宅地では、特例が認められる面積の上限が200㎡まで狭まるため、居住用宅地ほどの恩恵は受けられません。
相続税対策のために不動産を買うならどっち?
相続税対策のために購入するなら、どんな不動産を選ぶべきでしょうか。ここでは、さまざまな種類の不動産を比較しながら、節税効果の高さについて解説していきます。

土地VS住宅
まずは代表的な不動産である土地と住宅の比較です。すでに解説した通り、土地と建物では実際の購入金額に対する評価額の割合が異なります。土地の評価額が時価の70~80%程度なのに対して、建物の評価額は最大で時価の50%程度です。評価額は建物のほうが低くなる傾向にあるため、土地に加えて住宅を購入すると節税効果がより高くなります。
一戸建てVSマンション
住宅のなかでも、一戸建てとマンションを比較してみましょう。分譲マンションは、床面積に応じてすべての所有者で土地を共有しています。つまり、購入価格のなかで建物分に相当する割合が高いということです。同じ価格の一戸建てと分譲マンションなら、分譲マンションのほうがより相続税評価額が低くなりやすく、節税効果が高いといえます。
タワーマンションVS一般マンション
同じマンションでも、タワーマンションと一般マンションを比較すると、どちらの節税効果がより高いのでしょうか。
結論から言うと、高層階にある部屋を購入するのであれば、タワーマンションのほうが節税効果は高くなります。マンションの価格は、一般的に高層階になるほど高くなる傾向にあります。しかし、相続税を計算する際の評価額は、同一マンション内ならどの階にある部屋でも同じになるのです。よって、価格の高い高層階も、低層階と同じ評価額となります。
相続税対策では、タワーマンションのなかでもより高層階にある部屋を購入するのが、実際の購入金額に対して税金を低く抑えられる賢い判断といえるでしょう。一方で、タワーマンションの低層階の部屋を購入するのであれば、節税効果は一般マンションとほとんど変わりません。節税効果の高さで選ぶなら、高層階をご検討ください。
ワンルームマンションVS1棟マンション・アパート
最後に、1部屋のみ購入するワンルームマンション投資と、1棟を丸ごと購入するマンション・アパート投資を比較します。相続時の分配のしやすさを考慮するならば、ワンルームマンションなどの区分所有マンションが望ましいでしょう。反対に、1棟買いのマンションやアパートは、相続人同士で平等に分けるのが難しいといえます。遺産分割において、相続人同士のトラブルに発展するリスクがあります。もしも資金に余裕があるならば、1棟買いではなく区分所有のマンションを複数購入するといった対策方法をご検討ください。
不動産を相続する際の注意点

不動産を相続する際、相続人の方が注意しておきたいポイントをご紹介します。不動産の形で財産を相続すると、節税効果が期待できる一方で、以下の点にご注意ください。
不動産は親名義であること
相続税対策で不動産投資をするなら、不動産は親の名義で購入する必要があります。子供の名義で不動産を購入すると、生前贈与に該当してしまうことが理由です。生前贈与の場合は、相続税ではなく贈与税が発生することになります。贈与税額は相続税額よりも高く設定されているため、その分多くの税金を支払わなければなりません。
ただし、生前贈与には年間110万円の非課税枠があるので、使い方によっては相続税対策としても有効です。不動産投資や生命保険の活用といった相続税対策と併せて、計画的に贈与を行うと節税やトラブル予防につながります。生前贈与については相続人と被相続人で相談して、不動産投資とは別に検討するとよいでしょう。
資産価値の見極めも大切
相続税対策で購入した不動産は、その後に資産となります。購入後に不動産の資産価値が変動すれば、節税額以上に赤字が出てしまうリスクがあるのです。建物の資産価値は、時間の経過に伴い減少する傾向にあります。不動産の資産価値を保ち節税効果を得るためには、不動産そのものの価値の見極めが重要といえます。
また、すべての資産を不動産の形に換えるのには、大きなリスクが伴います。固定資産税は現金で納税しますが、万が一資金がショートしてしまった場合には、不動産を売却して現金化することになるでしょう。このとき、売却によって得た利益は所得税や住民税の課税対象となり、結果として節税効果にも影響するためご注意ください。また、不動産はすぐに売却して現金化できるとは限りません。買い手がつくまでに時間がかかる可能性がある点に留意しておきましょう。相続税対策で不動産投資をするなら、最初に資産としての価値を見極め、バランス良く保持することが大切です。
遺産相続トラブルに注意
不動産の形の資産は、現金のように簡単には分割できません。相続人が1人のみであれば問題がありませんが、相続人が複数人いるケースでは分配でトラブルに発展するおそれがあります。相続が始まってからトラブルを解決するのは難しいため、可能であれば不動産の購入前にあらかじめ相続人と被相続人で話し合いを済ませておいたほうがよいでしょう。このとき、話し合いの内容は遺言書にまとめておくと安心です。不動産投資で相続税対策をするなら、遺産分割をスムーズに進めやすくするために、生前から工夫しておきましょう。
共有名義での相続に注意
不動産を共有名義で相続すると、相続人同士に公平感があるのがメリットですが、一方でデメリットもあります。共有名義で相続した不動産は、それぞれの相続人が自由に使えません。たとえば、売却やリフォームをする際には、名義人全員の承諾が必要となります。相続した不動産の処分方針をめぐって、後々にトラブルに発展するおそれがあるためご注意ください。もし不動産のほかにも遺産があるならば、不動産は単独名義で1人に相続するのが望ましいでしょう。相続対策で不動産投資を行うなら、節税効果の高さに注目するだけでなく、相続人同士のトラブル予防にも配慮することが大切です。
納税用の現金を準備
不動産を購入しつつ、納税用の現金を確保するには、借入金を活用する方法もあります。手元の資金で不動産を購入すると相続税を納税する資金を残すのが難しい場合、借入金の活用が有効です。相続税の支払いに必要な資金を残せないと、相続人が自らの資金から捻出するか、相続した不動産を売却することになります。納税用の現金が必要となることに留意して、事前に余裕をもって準備しておきましょう。ただし、相続時に借入金の返済が残っていると、相続人に返済義務も継承される点にご注意ください。
不動産ではなく現金を相続するという選択で得られるもの
ここまで、相続税対策として不動産の形で財産を相続することについて解説してきました。一方で、現金の形で相続する選択肢もあるため、ぜひご検討ください。
現金を相続するメリット
相続税の納税額は、相続する財産の合計額から基礎控除額をマイナスし、さらに規定の税率と控除額を適用して算出します。たとえば、現金での相続財産の合計額が6,000万円で、相続人が1人の場合は310万円を納税しなければなりません。相続人が配偶者のみで、税額軽減の対象のため無税となるケースを除いて、現金の形で相続をすると通常通り税金が発生します。このように、現金での相続は不動産相続のような節税効果は見込めないのですが、実は大きなメリットもあります。
不動産相続では、不動産である土地や物件などを相続することになるため、住居・貸家・駐車場など相続後の用途は限定されます。もちろん相続後に不動産を売却して現金化する選択肢もありますが、売却活動には相応の手間がかかりますし、必ずしも納得できる価格で売却できるとは限りません。その点、現金の形で相続すれば、不動産のように相続後の使い道を制限されることがなく、どんな用途にも自由に利用できるのがメリットです。
また、遺産分割についてすでに解説した通り、相続した現金は1円単位で簡単に分割できます。現金化すると相続人が複数人いる場合でも平等に分配しやすく、トラブルになりにくいのも大きなメリットといえるでしょう。
相続税が発生しないケース
遺産相続では、基礎控除額が設定されています。相続税の基礎控除額は、「3,000万円+法定相続人の人数×600万円」で計算されます。たとえば、相続人が1人なら3,600万円、2人なら4,200万円となり、相続する財産がこれらの金額以下の場合は課税されません。
相続税について考える場合、まずは相続額と基礎控除額を比較してみましょう。相続額が基礎控除額より低い場合は、少なくとも節税目的で不動産を購入する必要はありません。
遺産相続においては、多くの場合は現金相続よりも不動産相続のほうが有効な対策になります。ただし、相続後の用途の自由度や相続までのライフスタイルを考慮すると、現金相続が有利な場合もあります。
現金化しながら自宅で暮らす「リースバック」という選択肢
「相続トラブルを避けるために遺産を現金で相続したい」「現在の住まいをあらかじめ現金化しておきたい」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。しかし、いざ家を売り払って賃貸などに引っ越すと手続きの負担が多くなりますし、健康なうちは愛着のある家に住み続けたいとお思いの方が多いのではないでしょうか。相続対策として不動産を現金化しながら、引き続き自宅で暮らし続けられると理想的です。
そんな方には「リースバック」というサービスをおすすめします。リースバックとは、自宅をサービス提供会社に売り渡した後、賃貸の形でそのまま住み続けることを可能にしたサービスです。不動産売却でまとまった資金を調達できるのに加えて、売却後は毎年の固定資産税を負担する必要がありません。相続対策にリースバックを利用すれば、自宅を売却した代金を受け取りつつ、家賃を払って自宅で暮らし続けて、これまでと変わらない生活を送れます。住環境を変えずに現金で財産を残したいという方に最適です。
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※2021年1月時点の情報です。