2019年に金融庁から発表された報告書がきっかけでクローズアップされた「老後資金2,000万円問題」。
老後には意外と多くの生活資金が必要です。食費や光熱費といった生活費のほかに、医療費や介護費も心配ですし、リタイア後の人生を充実させるための趣味活動や、お子さんやお孫さんへの生前贈与といった、シニア層ならではの出費も生じてくるでしょう。
ここでは、そんな老後の生活資金を調達する方法のひとつとして、リバースモーゲージについてご紹介します。シニア層がメリットを実感しやすい金融商品である反面、利用条件なども細かく設定されるため、よく理解し、必要に応じてご検討ください。
INDEX
リバースモーゲージの基礎知識
自宅を担保に金融機関から老後の生活資金を借り入れる、シニア層向けの貸付制度と言えるリバースモーゲージ、その特徴や利用条件についてお伝えします。

リバースモーゲージとは?
リバースモーゲージは、シニア層向けの金融商品の一種で、契約者は自宅を担保に金融機関などから生活資金を借り入れます。その後も自宅に継続して住み続け、契約者の死亡後に担保とした不動産を処分し借入金を一括返済する仕組みです。契約期間中の毎月の支払いは利息分のみとなるため月々の出費を抑えることができ、また自宅の売却金額が借入残高を上回れば、相続人は差額を受け取れます。
リバースモーゲージの利用条件
リバースモーゲージには利用条件が定められています。まず、特徴的なのは年齢条件です。年齢の上限および下限は商品によって異なりますが、55歳以上から80歳前後までが対象となるのが一般的です。また、リバースモーゲージは戸建住宅を対象とした商品が多い傾向にあります。なかにはマンションを担保にできる商品もありますが、基本的には経年劣化しにくい土地付きの戸建て住宅が対象です。
住宅ローンとの違い
一般的に住宅ローンは月々「元金+利息」を支払いますが、リバースモーゲージは「利息」のみの支払いなので、毎月の支出を抑えることが可能です。定年後も住宅ローンが残っている場合、自宅を資産として相続しないのであれば、豊かなセカンドライフを送るため、住宅ローンからリバースモーゲージへの借り換えも検討してみてはいかがでしょうか。
リバースモーゲージの種類

リバースモーゲージの種類は、大きく分けて2つ。公的機関が行なっているものと民間の金融機関などが行なっているものです。どちらも基本的な仕組みは同じですが、借入金の使途や貸付限度額、対象となる物件が異なります。
公的機関として、各自治体や社会福祉協議会が窓口となる貸し出しは、主に低収入の高齢者向けにつくられた制度のため、収入制限がありますので注意してください。利用使途は生活資金に限られます。その他条件などは各自治体により違いますので、窓口や自治体にご確認ください。
公的機関が提供するリバースモーゲージ
福祉制度の一環として一部の社会福祉協議会がリバースモーゲージを取り扱っています。
不動産担保型生活資金
低所得世帯向けの貸付制度です。自己所有の不動産に住み続けることを希望する高齢者が、自宅などの不動産を担保に生活資金を借りることができる制度です。
- 対象者:65歳以上の市町村税非課税世帯または均等割課税世帯程度の低所得世帯
- 対象物件:土地の評価額がおおむね1,500万円以上の一戸建て
(抵当権などの担保権が設定されていないこと。) - 貸付限度額:居住用不動産の評価額に対して70%まで借り入れ可能
※月額:30万円以内(原則3カ月ごとの支払い) - 使途:生活資金
- 貸付期間:契約者の死亡時まで、または貸付元利金が貸付限度額に達するまで
- その他要件:推定相続人から連帯保証人が必要
要保護世帯向け不動産担保型生活資金
自己所有の不動産に住み続けることを希望する要保護の高齢者世帯に対し、自宅などの不動産を担保に生活資金を借りることができる制度です。
- 対象者:65歳以上で、この制度を利用しなければ生活保護を受給することとなる要保護世帯であると福祉事務所が認めた世帯
- 対象物件:居住用不動産(土地及び建物)の評価額の70%程度(集合住宅の場合は50%)
- 貸付限度額:居住用不動産の評価額に対して70%まで借り入れ可能
- 月額:生活扶助額の1.5倍以内(生活保護費に基づき算出)
- 使途:生活資金
- 貸付期間:契約者の死亡時まで、または貸付元利金が貸付限度額に達するまで
- その他要件:連帯保証人は不要
民間金融機関が提供するリバースモーゲージ
民間の金融機関が窓口となる貸し付けは、金融機関独自の商品と、住宅金融支援機構との提携商品の2種類があります。どちらか一方の場合が多いのですが、両方あるところもあります。いずれにしても、自宅などを担保にして融資を受け、利用者が亡くなったら一括返済するという大枠の仕組みは同じです。金融機関独自の商品は、利用条件や融資額、資金使途などがさまざま異なりますので、詳しくは各金融機関にお問い合わせください。
利用条件を満たしていれば、配偶者でも契約が引き継ぎ可能な商品や、遺言信託とリバースモーゲージを組み合わせた商品など、亡くなった後の不安を軽減しながら、豊かな老後・セカンドライフを送ることが可能になります。
住宅金融支援機構との提携商品「リ・バース60」
死亡時一括返済型のリバースモーゲージ型住宅ローン。「住宅ローン」なので、資金使途は住宅関連に限定され、生活資金などに充当することはできません。返済中の住宅ローンを「リ・バース60」に借り換えると、月々の支払いが利息のみになるため毎月の出費を減額でき、家計に余裕を生み出すことも可能となります。
商品概要は以下のとおりです。
- 自宅(住宅および土地)を担保に借り入れ
- 毎月の支払い:利息のみ
- 元金の返済:
- 契約者、あるいは連帯債務で借り入れをしている場合は、主債務者及び連帯債務者が共に亡くなられたとき
- 相続人から一括して返済、あるいは担保不動産を売却して一括返済
- 対象者:
- 申込日時点で、満60歳以上の個人
- 年収に占めるすべての借り入れ(「リ・バース60」を含みむ)に関する年間返済額および年間支払額の合計額の割合が次の基準を満たしている方
- 年収400万円未満の場合:30%以下
- 年収400万円以上の場合:35%以下
- 使途:
- 本人が居住する住宅の建設・購入資金
- 住宅リフォーム資金
- 既存住宅ローンの借り換え
- サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金
- 子世帯などが居住する住宅の取得資金を借り入れるための資金
- 融資限度額:最大5,000万円まで(ただし、使途・担保評価等によって異なります)
- その他要件:保証人は不要
なお、担保不動産を売却した代金で一括返済した後に残債がある、いわゆる担保割れの場合、次のうちいずれかの取り扱いとなります。
- リコース型:住宅の売却後に残った残債を相続人が返済するタイプ
- ノンリコース型:相続人が残債の返済を行わないタイプ
「リバースモーゲージ型住宅ローン」の窓口は銀行など各金融機関です。金融機関によって、住宅ローンの条件等が異なりますので、利用にあたっては、事前に比較検討ください。
リバースモーゲージのメリットとデメリット

老後の資金調達に利用できる、リバースモーゲージのメリットとデメリットをご紹介します。リースバックをはじめとした他のサービスとよく比較し、ご自身にとって最適の選択にお役立てください。
リバースモーゲージのメリット
自宅に住み続けられる
リバースモーゲージで融資を受ける際は、自宅を手放す必要がありません。一般的にシニア層は賃貸住宅への入居が難しい傾向にあるため、自宅を売却せずに資金調達ができるのは大きなメリットだといえるでしょう。必要な資金を借り入れしながら、住み慣れた住宅での暮らしを続けられます。
シニア層でも融資を受けられる
年金が主な収入源となるシニア層は、融資を受ける際に返済能力が評価されにくいため、審査に通過するのが難しい状況にあります。それに対して、リバースモーゲージは55歳以上のシニア層向けの金融商品であり、老後でも無理なく融資を受けられるのがメリットです。
資金用途が老後のニーズにマッチしている
リバースモーゲージは金融商品により資金用途が定められる場合があります。用途は自由ではないものの、老後のニーズにマッチした内容となっているため、利便性が高いのが特徴です。たとえば、老後の生活資金や医療費だけでなく、趣味や生前贈与に利用できるリバースモーゲージもあります。
リバースモーゲージのデメリット
生前に極度額に達するおそれがある
リバースモーゲージの契約者が当初の見込みよりも長生きすると、生前の借り入れが融資極度額に達するおそれがあります。個人の寿命は予想がつきにくいため注意が必要です。
相続人に負担が生じやすい
リバースモーゲージを契約する際は、相続人の同意が必要となります。万が一、自宅の売却代金が借入残高を下回れば、相続人は相続放棄や代物弁済などの措置をとる必要があるでしょう。相続人の負担も考慮する必要があります。
金利や不動産価値が変動するリスクがある
リバースモーゲージには基本的に変動金利が適用されています。将来的に金利が高まれば、返済額が高額化するでしょう。また、不動産価値の下落にともない、融資極度額が下がるおそれもあります。
リバースモーゲージと住宅ローン、リースバックとの違い
自宅などの不動産にかかる費用の調達方法として、既存のいわゆる「住宅ローン」と「リバースモーゲージ」、「リースバック」の違いを見てみましょう。

住宅ローンとの違い
リバースモーゲージと住宅ローンは自宅を担保とする融資という点では同じですが、資金の受け取り方と返済方法などが異なります。
住宅ローンは契約時にまとめて資金を受け取り、返済は毎月元金に利息を加えて支払います。
リバースモーゲージの資金の受け取り方は、主に「年金方式」「一括方式」「極度額方式」の3つがあります。金融機関ごとに異なるため、資金の使用用途やニーズにあわせて選ぶと良いでしょう。返済は契約者の死亡時に一括返済となりますが、月々の支払いはなしで元金と利息を一括で返済する方法と、月々は利息のみを支払い契約終了時に元本を一括返済する方法があります。
リースバックとの違い
リースバックとは、持ち家を売却した後、賃貸という形で同じ家に住み続けられるサービスで、引っ越しの必要がない点はリバースモーゲージと同じです。
リバースモーゲージとリースバックは資金の調達方法や受け取り方などが異なります。主な違いはこちら。
- リースバックは売却して資金を一括で受け取る
- 融資ではないため、利息は発生しない
- 売却するため、所有権(名義)は買主に移る
- リースバックは資金の使いみちが自由
- リースバックは利用者の年齢制限や年収制限がない
- リースバックは取り扱える物件が幅広い
リバースモーゲージの主な使いみち
リバースモーゲージは、商品によっては資金用途が定められていることがあります。必要な用途に適合しているか、事前にご確認ください。ここでは、リバースモーゲージの主な使いみちをお伝えします。

老後の生活資金
定年退職にともない年金が主な収入源となる老後。その後も引き続き毎月の生活資金をまかなう必要があります。食費・水道光熱費・交通費など、生活にかかわるお金をリバースモーゲージでまかなえます。
医療費・介護費
健康を維持するための医療費や、日常生活のサポートを受けるための介護費は、加齢にともない高額化する傾向にあります。リバースモーゲージには、医療や介護による出費に対応する金融商品もあります。融資を受けて有料老人ホームの入居費用に充てるケースも少なくありません。
リフォーム
高齢化すると、住み慣れた住宅の階段や段差が事故につながるおそれがあります。自宅の段差を減らしたり、手すりを付けたりする、バリアフリーのためのリフォームにもリバースモーゲージを利用可能です。
趣味
リタイア後の長い人生を楽しむためには、自分の趣味に打ち込む時間が大切です。レクリエーションに参加したり、生涯学習の講座を聴いたり、日々を充実させるためにリバースモーゲージが役立ちます。
生前贈与
大切なお子さんやお孫さんへ資産を残すためにリバースモーゲージを利用する方もいらっしゃいます。特に、高額になりやすい結婚費用や、教育費として生前贈与を行うことがあります。
シニア層にメリットが期待できるリバースモーゲージ
リバースモーゲージとは、自宅を担保に金融機関から融資を受けられる、金融商品です。対象となるのはシニア層で、老後の生活資金や医療費をはじめとした、暮らしに必要な資金を準備できます。自宅に住み続けながら借り入れが可能です。その一方で、個人の寿命や金利や不動産価値の変動などがかかわり、将来の予測がつきにくい部分もあります。資金調達の方法は、ほかに自宅を売却し、そこに賃貸契約で住み続けられるリースバックなどの選択肢もあるため、相続人の方と相談しながらご自身の資金状況を見直し、用途に合わせてご検討ください。
