多くの財産を所有する方が亡くなると、遺族は遺産を相続するとともに、多額の相続税を支払う可能性があります。せっかくの財産を、より多く遺族の手元へ残すためには、生前に相続税対策に取り組んでおくことが大切です。ゆとりのある老後のために、余裕をもって対策を始めましょう。
ここでは、相続税の基礎知識に始まり、今からできる想像税対策をいくつかご紹介していきます。老後の財産や遺族の負担についての不安を少しでも減らしたいとき、参考にご一読ください。
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相続税の基礎知識
相続税対策を考えるうえで、そもそも相続税とはどんな税金なのか、どんな財産が対象となるのか理解しておくことが重要です。まずは、相続税の基礎知識をお伝えしていきます。

相続税とは?
相続税とは、亡くなった方が生前に所有していた財産を受け継いだとき、遺産に対してかかる税金のことです。遺産額の合計が「基礎控除額」を超える場合に、相続税がかかります。基礎控除額は、法定相続人の数により異なります。法定相続人とは、民法で定められた遺産相続ができる人のことで、基本的には故人の配偶者と親族が対象です。基礎控除額は以下の式で算出できます。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人が1人なら基礎控除額は3,600万円、2人なら4,200万円、3人なら4,800万円です。遺産額は、財産の総額から故人の葬式費用や墓地の費用、債務などを差し引いた金額となります。反対にいうと、遺産額が基礎控除額を超えないとき、相続税はかかりません。相続税がかからないケースでは、納税が不要となるため、相続税の申告そのものも不要となります。
相続税の対象となる財産の例
金融資産
相続税の対象としてまず挙げられるのはお金です。金融資産とは、預貯金や現金に代表される、いわゆるお金のこと。故人の銀行口座は名義人が死亡すると凍結されますが、相続人全員が合意し必要書類を提出すれば相続できるようになります。ほかにも、株券や小切手を含む有価証券や、国や地方公共団体が発行した債権である公社債は、そのものに財産としての価値があり、金融資産にあたります。
不動産
建物や土地のように、動かせない財産のことを不動産と呼びます。不動産のうち、建物の例としては家屋・マンション・アパート・駐車場などが挙げられます。土地の例としては、宅地のほかに農地や山林なども不動産です。一方で、動かせる財産のなかには不動産に準じて扱われるものもあります。たとえば、自動車・農業機械・船舶はいずれも動産にあたりますが、登録が必要であり不動産に準じて扱われます。
動産
動産とは、不動産以外の動かせる財産のことを指します。たとえば、建物のなかにある家具や、庭に植えられている樹木などは動産です。また、宝石・貴金属・書画・骨董品をはじめとした、高い価値を持つ品物も相続税の対象となるためお気をつけください。動産のなかには、専門知識がない方にとって価値がわかりにくい品物もあります。遺品整理の際は専門家による鑑定を受けておくと安心です。
権利
権利を所有していた方が亡くなると、遺族が権利を相続することになります。文芸や美術をはじめとした著作物の権利を持っている場合には、著作権も相続税の対象です。同様に、特許権や商標権などが権利の例として挙げられます。また、遺産相続によくあるのが、故人のゴルフの会員権を見落としてしまうケースです。ゴルフの趣味がある場合には、ゴルフの会員権も忘れずにご確認ください。
相続税の控除
相続税には、控除を受けられるケースがあります。たとえば、「配偶者控除」は代表的な控除の例です。故人の配偶者は、条件に該当する場合に申告書を提出することで、控除を受けられるようになります。ほかにも、20歳未満の相続人が対象となる「未成年者控除」や、障害者の相続人が対象となる「障害者控除」、贈与税との二重課税を防ぐための「贈与税額控除」などが挙げられます。
【相続税対策1】生前贈与を行う
相続税対策として生前贈与を行う方法があります。基礎控除額である年間110万円以下で生前贈与を行えば節税につながります。ここでは、生前贈与の基礎知識やメリット・デメリットをご紹介します。
生前贈与の基礎知識
相続税対策として、生前贈与が行われるケースが多くあります。生前贈与とは、生きている間に財産の贈与を行うことです。生前贈与も相続と同様に課税の対象となります。贈与税は、1月1日から12月31日の1年間に贈与を受けた金額の合計が、基礎控除額の110万円以上である場合に課税されます。
つまり、非課税である110万円以下の生前贈与を毎年行えば、その分節税につながると考えられます。ただし、相続の開始前3年以内に行われた生前贈与は、相続税の対象として含まれてしまう点にご注意ください。相続税対策として生前贈与をするなら、できるだけ余裕をもって始めましょう。
一方で、贈与税の税率が相続税よりも低いのであれば、110万円以上の生前贈与を行った場合でも節税につながります。相続税の税率は、取得する金額が大きくなるほど高くなるため、多くの資産をお持ちの方は生前贈与を行ったほうが有利になる可能性があるでしょう。
また、贈与者と受贈者の条件が合えば「相続時精算課税制度」を利用できます。相続時精算課税制度とは、60歳以上の親または祖父母が20歳以上の子または孫に生前贈与を行うとき、累計2,500万円まで贈与税の控除を受けられる制度です。控除を受けるためには申告書を提出する必要があります。
上記の基礎控除や相続時精算課税制度のほかにも、生前贈与には特例の非課税枠が存在します。たとえば、子または孫の住宅取得等資金として3,000万円までの贈与が非課税となったり、結婚・子育て資金として1,000万円までの贈与が非課税となったりする特例があるため、ぜひご活用ください。
生前贈与のメリットとデメリット
生前贈与で相続財産をあらかじめ減らしておけば、相続税の節税につながります。生きている間に準備を始めれば、贈与者の意思で自由に財産を受け渡せるのもメリットです。相続では法律に基づいて相続人が決められていますが、生前贈与ではより柔軟に受贈者を決められます。相続と比べて手続きの負担が少ないため、死亡後の遺族の負担を減らすという意味でもメリットを実感しやすいでしょう。

ただし、生前贈与を成立させるためには、贈与者と受贈者の合意が必要です。両者の合意を立証できない場合には、税務署から生前贈与を否認されるおそれがあります。節税のために生前贈与を検討するなら、贈与契約書を作成して契約について記録として残しておくと安心です。また、生前贈与は贈与者の老後資金を減らすというデメリットもあるため、節税対策は無理のない範囲で行いましょう。
【相続対策2】不動産を活用する
相続で不動産を活用すれば、節税効果が期待できます。不動産は相続で評価額が下がり、現金よりも相続税額を抑えられる可能性があるためです。ここでは、不動産の活用についてお伝えします。

不動産を活用した相続税対策
相続税の計算では、「相続税評価額」と呼ばれる価格が基準となり、課税額が決まります。建物や土地をはじめとした不動産の場合、相続において通常の売却価格よりも評価額が下がるのが特徴です。たとえば、1億円の現金の遺産と、時価1億円の不動産の遺産があったとします。このとき、不動産の相続税評価額が7,000万円に下がれば、1億円の現金を相続した場合と比べて節税につながるのです。
また、不動産を賃貸として活用し第三者へ貸し出している場合には、さらに相続税評価額が下がります。建物や土地を貸し出すと、不動産の所有者のほかに利用者の権利も関係することから、評価額が減額される決まりがあるためです。マンションやアパートなどの不動産として財産を遺し、かつ賃貸として貸し出せば、現金を相続する場合と比べてさらに高い節税効果が期待できるでしょう。
ただし、不動産は売却するために手間がかかり、買い手が見つからなければ現金化が難しいという難点があります。売却時の利益に譲渡所得税が課税されるのも、事前に理解しておきたいポイントです。それだけでなく、マンションやアパートなどの賃貸物件で収入を得るためには、常に入居者を確保する必要があります。相続対策に不動産を活用する際は、これらのリスクも含めたうえでご検討ください。
小規模宅地等の特例
ほかにも不動産を活用した相続税対策として、「小規模宅地等の特例」が挙げられます。小規模宅地等の特例とは、被相続人と一緒に暮らしていた親族が宅地を相続した場合に、一定の面積までであれば相続税の大幅な減額を受けられるという特例です。たとえば、被相続人と居住していた宅地であれば、330平方メートルまでは8割の減額を受けられます。また、事業や賃貸で使っていた土地なども対象であり、面積や要件に応じて5割または8割という大幅な減額が期待できます。
小規模宅地等の特例を利用できる例としては、被相続人の配偶者の方が土地を相続するケースが挙げられます。被相続人と同居していた方が土地を相続するケースも対象です。事業用の土地の場合は、被相続人が個人名義の物件で事業を営む、個人商店に代表されるようなケースが当てはまります。また、賃貸用の土地は、アパートやマンションのほか、駐車場や駐輪場でも特例を利用できます。あくまで建物は対象外となりますが、土地のみの減額であっても多くの節税効果が期待できるでしょう。
【相続税対策3】葬儀費用や祭祀財産で調整する

相続税の対象となる財産として、金融資産や不動産などの例をご紹介しました。一方で、仏壇や墓地などの祭祀財産は非課税です。相続税の対象外となる財産を、相続税対策にお役立てください。
葬儀費用による節税
親族が亡くなったときの葬儀費用は、相続税の控除の対象です。故人の葬儀にともなう出費は、相続財産から差し引いて計算できます。葬儀費用とは、具体的には埋葬や納骨の費用、通夜や告別式を執り行う費用のほか、参加した方の飲食費、運転や受付の業務へ協力してくれた方の人件費、お布施や納骨費用も含まれます。被相続人の職業や財産に対して相応しい範囲であれば、葬儀費用は故人の遺産から支払うことが可能です。生前の故人への敬意を示すとともに、遺族の心に残る葬儀を行いましょう。
一方で、故人の弔いに関連するものの、葬儀費用には含まれない費用があるためお気をつけください。たとえば、仏壇や墓地の費用、香典返しの費用、初七日や四十九日の法要の費用などは葬儀費用に含まれません。特に、仏壇や墓地は葬儀費用としての控除が期待できない一方で、相続税が非課税となるため、相続が始まる前に購入しておいたほうが好ましいでしょう。葬儀費用は法律で負担者が決められていないからこそ、相続財産から差し引くという選択肢を知り、節税やトラブル予防にお役立てください。
祭祀財産による節税
故人の弔いにまつわる設備や器具は「祭祀財産」と呼ばれます。たとえば、故人が埋葬される墓地や、故人が祀られる仏壇や神棚などは、祭祀財産の一例です。これらの祭祀財産は、金融資産や不動産とは異なり、相続税が非課税となります。ただし、相続手続きの開始以降に購入した祭祀財産は、控除の対象となりません。祭祀財産は生前に購入し、相続財産を減らすために活用しましょう。
特に、近年では都市部を中心とした墓地不足が問題視されています。少子高齢化にともない、墓地の需要は今後も増加する見込みです。生前に墓地を購入しておくことは、遺族の負担を減らすだけでなく、老後の不安解消にもつながるでしょう。節税対策に限らず、老後のゆとりのためにご検討ください。
スムーズに相続を進めるためのポイント
相続をスムーズに進めるためには、生前の判断能力に問題がない時点で、できることに取り組んでおくと安心です。ここでは、相続対策の一環として遺族への負担を減らすポイントをご紹介します。
相続税を考慮して遺言書を作成する
親族が亡くなると、遺族は葬儀の準備や各種手続きに追われ、多忙な日々を過ごすことになります。そんな遺族の負担を少しでも減らすために、生前に遺言書を作成しておくのもひとつの手です。遺言書とは、故人の意思を伝える書類のこと。相続対策に遺言書を利用すれば、遺産相続をスムーズに進めやすくなる一方で、相続が親族同士のトラブルに発展するのを防ぐ意味合いもあります。
このとき、遺言書の作成者は相続税についてよく理解しておきましょう。相続税を考慮せずに遺言書を作成すると、遺産相続で遺族が多額の税金を支払うことになりかねません。ここまでお伝えしてきたように、節税のためにできる工夫を踏まえて、遺族に負担のかかりにくい遺言書をご用意ください。きちんと効力を持つ正式な遺言書を作成するために、専門家のアドバイスを受けることも視野に入れましょう。

認知症になる前に相続対策を始める
加齢にともなう脳の老化で、認知症を発症する高齢者が少なくありません。認知症が進行すると、ものごとを理解したり判断したりする能力が衰え、社会生活に支障をきたすおそれがあります。万が一、医師から認知症の診断を受けた場合には、意思能力がかかわる契約行為が無効となってしまいます。認知症の発症以降は相続対策を行うのが難しくなるため、親族と協力して早めに取り組みましょう。
認知症になる前にできる相続対策としては、「家族信託(民事信託)」が挙げられます。家族信託は、委託者が受託者に対して財産の管理および運用を依頼し、その利益を受益者が受けるという流れで運用されます。受託者の役割を担うのは、委託者の親族です。家族信託を利用すると、生前から財産を管理できるようになるため、相続の認知症対策の方法として注目を集めています。
早めの相続税対策が老後のゆとりにつながる!
今回は、相続税の基礎知識や、代表的な相続税対策をご紹介しました。相続税を抑えるには、生前贈与を行う方法、不動産を活用する方法、葬儀費用や祭祀財産で調整する方法などが挙げられます。また、相続税対策には思わぬトラブルがつきものです。必要に応じて遺言書を作成したり、認知症になる前に対策を始めたりすると安心です。今回ご紹介した方法のほかにも、リースバックを活用した相続対策の選択肢もあります。リースバックなら不動産の売却後も引き続き自宅に住み続けることが可能です。生前に自宅を現金化し、不動産を整理しておく必要があるなら、お気軽に不動産会社にご相談ください。
