独立行政法人住宅金融支援機構が発表した「統合報告書2021」によると、令和2年度の住宅ローン貸付金残高約24兆円のうち、返済が不能となった額は630億円、滞納額は2,104億円でそのうち3ヶ月以上遅延しているのは647億円。
社会情勢の変化などで収入が減り月々の住宅ローン支払いが苦しくなったとき、延滞を続けると早ければ滞納期間3ヶ月で一括返済を求められます。その後も滞納を続けると、ご自宅の競売手続きが進められ、最終的にはマイホームからの退去が求められる事態になることも。このような事態を避けるためには、早めの対応が必要です。
今回は、住宅ローン返済が滞るとどうなるか、競売を避けるためにはどのような手段があるのか見ていきましょう。
参考:「統合報告書2021」(独立行政法人住宅金融支援機構)
https://www.jhf.go.jp/files/400357482.pdf
INDEX
住宅ローンを払えなくなるとどうなる?
新型コロナウイルスの影響による収入の減少や、離婚・リストラなどが原因で住宅ローンを滞納した場合、どのようなことが起こるのか見ていきましょう。

遅延損害金が発生する
経済状況の悪化による収入の減少、病気による予期せぬ出費などが原因で住宅ローンの返済が遅延した場合、銀行系の住宅ローンでは一般的に、返済日の翌日から遅延している元金に対し年14.0%~14.6%の遅延損害金が発生(1年を365日とする日割り計算)します。
遅延損害金の計算式は以下の通りです。
遅延した元金×14%÷365×返済日の翌日からの経過日数
なお、遅延損害金はあくまでも延滞に対する損害金であり、通常の利息とは別の扱いなので、結果的に支払額が増えることになります。
個人信用情報機関に金融事故として情報が登録される
遅延損害金が発生しただけで直ちに信用情報に傷がつくわけではありませんが、滞納期間が3カ月を超えると、個人信用情報機関で金融事故の情報が共有されます。 いわゆるブラックリストと呼ばれるものに事故情報が登録されると、完済から5年間はクレジットカードの新規作成やローンの契約など新たな借金ができなくなる場合があります。
残債の一括返済を求められる
決められた日に住宅ローンの引き落としができず、銀行など金融機関からの催告書や督促状を無視して滞納を続けると、おおよそ4カ月から6カ月で金融機関から「期限の利益の喪失」が通知されます。
「期限の利益を喪失」した場合、住宅ローンを分割で返済する権利を失い、残債を一括で返済するよう請求され、残債の一括返済ができないまま1カ月が過ぎると、次に「代位弁済通知書」が届きます。
「代位弁済」とは住宅ローンの借入先である銀行など金融機関の残債の支払いを保証会社が一括で弁済することを指し、債権が保証会社へ移ります。
この状態になると、住宅ローンの借り換えや返済計画のリスケジュールといった検討の余地がなくなります。
競売にかけられる
代位弁済通知が届いて何もしなければ、競売の申し立てがされます。
競売とは、金融機関や保証会社などの債権者が裁判所に申し立てを行い、所有者の同意なしに入札形式で強制的に担保不動産を売却し、債権を回収する手続きのことです。
半年以上住宅ローンを返済できないと金融機関が担保である住宅を差し押さえ、その担保不動産について裁判所に競売の申し立てを行います。
次に、裁判所から「担保不動産を差し押さえた」旨のお知らせ「競売開始決定通知」が届き、競売準備のため裁判所の執行官が調査に来ます。この差し押さえ情報は登記簿にも記載され、第三者が知り得る情報です。この後、入札が行われ競売へと進みます。
競売が成立して落札者が決まると、落札者から代金が支払われ、担保不動産の名義が落札者に移りますが、この段階で、担保である住宅は自分のものではなくなるため、立ち退きを命じられます。競売後にそのまま居座ると約2カ月で強制執行となり強制退去を迫られます。
なお、競売での落札額は通常の不動産会社に依頼して行う不動産売買よりも売却価格が下がりやすい傾向にありますので、ローン残高を下回り債務が残る恐れがあります。債務整理のため自己破産が必要になるかもしれません。

住宅ローンが払えなくなる主な理由は?
住宅ローンが払えなくなるのはどういったときでしょう。こちらではその主な原因を解説します。

不況による収入の減少
不況により勤め先の業績が悪化した結果、ボーナスカット、月給の低下などによる収入の減少で家計が苦しくなり住宅ローンが払えなくなることがあります。さらにはリストラによって無職となり、安定的な収入である給与を得られなくなるケースも考えられます。
突発的な支出の増加
突発的な支出の増加により支払いが難しくなることもあります。例えば、病気やケガなどが原因で仕事を続けられないケースです。また病気やケガ等により入院、手術が必要になり支出が増加して住宅ローンが払えなくなることも。健康保険で傷病手当金などの制度はありますが、給与と同額が保障されるわけではありません。生命保険に加入していれば医療費の負担は抑えられ、給与保証の商品もありますが、住宅ローン返済までは補填されていません。最近は団体信用生命保険に上乗せする「疾病保障付き住宅ローン」が注目されています。これは特定の病気になって就業不能になったら保険金がおりるというもので、働けなくなっても住宅ローンがゼロになるという安心感はありますが、住宅ローン金利に保険料分が上乗せされるといったデメリットもあります。住宅ローンに疾病保障を付けるかどうかは、借入額と返済期間を考慮し、専門家に相談するなど慎重に検討して判断しましょう。
離婚
離婚は慰謝料や養育費など追加の支払いが必要になることが多く、住宅ローンが支払えなくなる原因となります。離婚後に妻が自宅に残り、夫が養育費の代わりに住宅ローンを返済するケースであっても、夫は住宅ローンの返済に加えて自身の住居費の支払いも必要になり、経済的な負担が増えることで住宅ローンが支払えなくなるおそれがあります。
定年
定年後は年金や貯蓄で生活費を賄っていくことになり、月々の収入は現役時代よりも下がることが一般的です。もし定年を迎えた後も住宅ローンを返済中の場合、毎月の返済負担が重くなり滞納につながることがあります。住宅ローン契約の期間としては最長35年とする金融機関が多いですが、申込時の年齢から最終の支払時が何歳になるか、定年後に何年支払いを継続する必要があるかに注意して、慎重に検討する必要があります。
また、退職金での一括返済を予定していたものの、想定よりも退職金額が少なく返済計画が狂うといった事態も考えられます。
無謀な返済計画
当初の返済計画に無理があったために住宅ローンを払えなくなるケースもあります。以下にいくつかのパターンをご紹介します。
- 年間返済額が年収に占める割合「返済比率」は30%~35%までと言われているが、高すぎたため毎月の支払いが家計を圧迫した。
- 住宅以外のカードローンやカーローンなど毎月支払いが必要な経費について、必要な支出を見落としていた、あるいは想定額が少なすぎた。
- 年収がアップする前提で返済計画を立てたが、予想を下回った。
- 夫婦共働きの前提で住宅ローンを契約したが、どちらかが働けなくなった、あるいは収入が減った。
住宅ローンを払えなくなったときの対処法

住宅ローンの支払いを滞納してしまった場合、競売・退去や自己破産という事態に至るのを避けるために、どのような解決方法があるのでしょうか。返済条件の変更、団信の適用可否、任意売却、リースバックの4つの方法についてご説明します。
返済条件の変更を相談する
金融機関に返済条件の変更を相談することで、一定期間は利息のみの支払いにできたり、返済期間を伸ばして毎月の返済額を下げたりすることができます。
金利が高い時代に設定した固定金利で支払っている場合、変動金利に切り替えることで月々の支払いが減額される可能性があります。
ボーナス払いを併用している場合は、毎月払いのみへ切り替えることも可能ですが、返済条件変更の際は審査があります。
団体信用生命保険の適用可否を相談する
住宅ローンを契約する際は団体信用生命保険(団信)に加入するのが一般的です。これは契約者が亡くなった場合や高度障害状態に陥るなど保険適用条件に該当したときに支払いが免除され、残りの住宅ローンが全額弁済される制度です。この保険の特約によっては、特定の疾病にかかった場合にも残債が保険金で支払われるケースがあるため、改めて、団信の特約に該当する条件がないか見直してみましょう。
任意売却を行う
競売にかけられる前に任意売却を行うという解決策もあります。「任意売却」とは、不動産会社の仲介により債権者と債務者の調整を行い、担保不動産を市場で売却する方法で、債務者・債権者・担保物件を購入する第三者で話し合い、合意した価格で第三者に売却します。
債務者は売却代金を返済に充て、債権者は抵当権を抹消します。
任意売却は競売と比較して市場価格に近い金額で売却できる可能性があり残債務の圧縮が見込まれ、また契約日や退去日などに関して債務者が決めることができるため、仕事やお子さまの学校などに影響が出ないよう調整ができます。 任意売却には債権者である銀行など金融機関の許諾が必要になりますので、住宅ローンの返済が難しそうになったら早めに相談しましょう。
リースバックを行う
任意売却や競売は取引が成立、すなわち自宅が売れた場合、自宅から退去することになるため引っ越しが必要になり、周囲に事情を知られるおそれがあります。
一方、不動産を売却した後に買主であるオーナーに対してリース料(家賃)を支払うことで、引き続きその不動産を利用する仕組みのリースバックなら、売却後も家賃を支払って自宅に住み続けられるため、近隣の方に売却の事実を知られることもなく、お子さまが転校する必要もありません。また将来的に買戻しができる可能性もあります。
リースバックを行う際は、任意売却と同様、銀行など金融機関から許諾を得る必要があります。オーバーローンでは利用が難しいなど条件もあるため、リースバックが可能か査定してみましょう。複数社に依頼できる一括査定サイトもあります。
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住宅ローンがあってもリースバックは可能?メリットと注意点も解説
住宅ローンの清算にもおすすめの一建設のリースバックプラス
一口にリースバックと言っても取扱機関によっていろいろなケースがあります。こちらではさまざまなサービスもプラスされた一建設株式会社の「リースバックプラス+」をご紹介しましょう。

リースバックプラスとは?
一建設の「リースバックプラス+」は、将来の暮らしまでをサポートする新しいリースバックと言えます。
家賃の軽減制度や新築物件への住み替え制度、防犯対策など、豊富なサービスを用意しています。
また「リースバックプラス+」では、賃貸住宅を契約する際に通常必要となる仲介手数料や敷金・礼金、更新料がかかりません。 「リースバックプラス+」の利用者は、さまざまなライフサポートが受けられる「はじめスタイルMembers」に登録が可能で、全国20万カ所以上の施設で優待サービスを受けられます。
リースバックプラスの2つのプラン
標準プラン
*プラン概要
「標準プラン」では、リースバック時に更新可能な賃貸契約を結び、安心して同じ家に継続して居住することが可能。しかも、住む期間が長くなるほど再購入価格が下がり、買い戻しのハードルが低くなっていきます。
*利用におすすめの人
短期的に買い戻しの予定がなく、生活環境を変えたくない方に向いているプランです。
定期プラン
*プラン概要
「定期プラン」では、最大1年間の賃料が無料で、特にリースバック初期の経済負担を減らしたい人におすすめです。また、2タイプに共通の敷金預入家賃減額制度では、ご売却金のうち、敷金としてお預けいただくことで、毎月の家賃を軽減でき、最大で半額に抑えられます。この家賃軽減は大きなメリットになるでしょう。
*利用におすすめの人
一時的に資金が必要となったが、早期に家を買い戻したい方に適したプランです。
住宅ローンの支払いに不安がある場合は早めの対策がおすすめ
新型コロナウイルスの流行など予期せぬ事態による収入の減少などから、住宅ローンの支払いに不安を感じる方が増えているようです。
ローンの引き落としができず支払いが滞ると金融機関による手続きが進み、自宅からの退去や最悪の場合、自己破産を迫られることにもなりかねません。そういった事態に陥らないよう、住宅ローン支払いが滞る要因を知り、早めに行動を起こし大切なマイホームを守りましょう。住宅ローンを借りている銀行との減額や返済方法の変更、リスケの交渉、あるいは任意売却・リースバックを取り扱っている機関・会社に早めに相談することにより今後の選択肢が増え、損害を少なく抑えることも可能になります。
